一駐在員の見た現代中国

中国の「今」について、書き連ねます。

上海市の隔離施設の朝に

 トントントン。部屋のドアをリズミカルに叩く音が聞こえる。朝7時、今日も時間どおりである。朝食が届いたに違いない。


 ここは中国・上海市の隔離施設に指定されているホテルの一室である。私は、赴任のため、成田空港から上海浦東空港に渡航した。その後、新型コロナウイルスの水際対策の一環として、渡航者に設定されている隔離観察期間14日間のうち、5日目の始まりをこうして過ごしている。


 世界各地の空港で新型コロナウイルスに関する水際対策が行われているが、ここ中国ではそれがかなり厳格に実施されている。飛行機が空港に到着しても、すぐには全員が降機できない。空港内に設置されたそれぞれの検疫のポイントで目詰まりを起こさないよう、少人数にグループ分けして進む。機内の中央部に座っていた私が降機できたのは、着陸から1時間半が経過した後であった。


 空港内では、防護服を装着した職員が、慌ただしく歩き回っている。かなりの人数である。ただ、物々しい雰囲気ではなく、個々の職員の対応は、人間味があって非常に親切である。将来的に、日本の空港で同様の検疫体制が実施された際には、国外から来られた方に対しては、不安感を解消させるような、温かみのある対応ができればと思う。

 

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空港職員への感謝のメッセージ等が貼られた掲示

 健康管理アプリの入力、保健師の面談、PCR検査の受検、入国審査があった後、ようやく隔離施設の場所が決められる。ここまでで着陸してから5時間以上経過しており、隔離施設への移動を待つ渡航者たちの顔にも、少し疲れが見える。結局、空港から大型バスに送迎されて、指定された隔離施設に到着したのは、日をまたぎ夜更け過ぎであった。

 

 この原稿を書いている2020年8月時点においては、日本から中国への渡航は、公務での渡航や企業駐在員の赴任等、限定された場合にしか認められていない。そのうえで、隔離施設や自宅における14日の隔離観察期間が設定される。


 このように厳格な水際対策だが、少しずつ緩和の動きが進みつつある。6月時点では、ほぼ全ての便が運休したことで週に9便しかなかった日中間の航空便は、2か月で15便にまで回復した。今後、両国の防疫体制が確立することにより、ビジネス目的の渡航も活発化してくるはずだ。アフターコロナにおける日本の海外展開も新たなステージを迎えることができるに違いない。

 朝7時を過ぎ、完全に日が昇り、賑やかさを増していく夏の上海の市内の様子を、窓から眺めながら、そう思った。